ヤタガラス 研究資料

熊野の自然

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熊野のシダ植物

熊野の地は温暖多雨で、常緑樹の繁る山地が海岸近くまで迫り、シダ植物の繁殖に適した自然環境に恵まれている場所が各地に存在する。 日本列島の中でも指折りのシダの種類が多い地域であるため、シダ植物の研究者や愛好家たちからは「シダ王国」とも呼ばれ、憧れの地の一つになっている。
以下に熊野の地で見られるシダの種類のリストを挙げて紹介することにする。 尚、最近シダの研究者の間で話題にされている雑種シダについては、一般向きでないので、ここではリストに入れないことにした。

和名
マツバラン科 マツバラン
ヒカゲノカズラ科 トウゲシバ・ヒロハトウゲシバ・オニトウゲシバ・スギラン・ナンカクラン・ヒカゲノカズラ・マンネンスギ・ミズスギ
イワヒバ イワヒバ・カタヒバ・クラマゴケ・ヒメクラマゴケ
ミズニラ科 ミズニラ
トクサ科 スギナ・イヌドクサ
ハナヤスリ科 コハナヤスリ・ヒロハハナヤスリ・コヒロハハナヤスリ・オオハナワラビ・アカハナワラビ・フユノハナワラビ・ナンキハナワラビ・ナガホノナツノハナワラビ
リュウビンタイ科 リュウビンタイ
ゼンマイ科 ゼンマイ・ヤシャゼンマイ・オオバヤシャゼンマイ・ヤマドリゼンマイ
キジノオシダ科 タカサゴキジノオ・キジノオシダ・オオキジノオ
ウラジロ科 コシダ・ウラジロ
フサシダ科 カニクサ
コケシノブ科 コウヤコケシノブ・キヨスミコケシノブ・ホソバコケシノブ・オオコケシノブ・ウチワゴケ・ツルホラゴケ・オオハイホラゴケ・ハイホラゴケ・アオホラゴケ
ヘゴ科 ヘゴクサマルハチ
コバノイシカグマ科 コバノイシカグマ・ウスゲコバノイシカグマ・イヌシダ・フモトシダ・クジャクフモトシダ・イシカグマ・セイタカイワヒメワラビ・イワヒメワラビ・ワラビ・ユノミネシダ・ヒメムカゴシダ・オオフジシダ・フジシダ
ホングウシダ科 ホラシノブ・ハマホラシノブ・シンエダウチホングウシダ・エダウチホングウシダ・ホングウシダ・サイゴクホングウシダ
シノブ科 シノブ・キクシノブ
ツルシダ科 タマシダ
ホウライシダ科 ミズワラビ・イワガネゼンマイ・イワガネソウ・イヌイワガネソウ・タチシノブ・ホウライシダ・ハコネシダ・クジャクシダ
シシラン科 タキミシダ・シシラン・ナカミシシラン
イノモトソウ科 モエジマシダ・オオバノイノモトソウ・マツザカシダ・イノモトソウ・オオバノハチジョウシダ・オオバノアマクサシダ・ハチジョウダニ・ニシノコハチジョウシダ・ヤワラハチジョウシダ・アマクサシダ・ヒカゲアマクサシダ・ナチシダ
チャセンシダ科 コタニワタリ・オオタニワタリ・クルマシダ・ヒノキシダ・コウザキシダ・コバノヒノキシダ・トキワトラノオ・トキワシダ・アオガネシダ・オクタマシダ・イワトラノオ・トラノオシダ・チャセンシダ・イヌチャセンシダ・ヌリトラノオ・シモツケヌリトラノオ・テンリュウヌリトラノオ・ヤクシマホウビシダ・ホウビシダ・ナンゴクホウビシダ・ハヤマシダ
シシガシラ科 シシガシラ・オサシダ・オオカグマ・コモチシダ
ツルキジノオ科 アツイタ・ヒロハアツイタ
オシダ科 オニヤブソテツ・ヒメオニヤブソテツ・ヤブソテツ・ヤマヤブソテツ・ミヤコヤブソテツ・イズヤブソテツ・ヒロハヤブソテツ・オリヅルシダ・ツルデンダ・ジュウモンジシダ・ヒメカナワラビ・カタイノデ・サイゴクイノデ・イノデモドキ・チャボノイデ・イノデ・アイアスカイノデ・アスカイノデ・サカゲイノデ・ツヤナシイノデ・イワシロイノデ・キヨズミイノデ・ヒロハナライシダ・ナンゴクナライシダ・イケミネナライシダ・リョウメンシダ・ミドリカナワラビ・オトコシダ・オオカナワラビ・ハカタシダ・オニカナワラビ・コバノカナワラビ・イヌツルダカナワラビ・ホバカナワラビ・ナガサキシダ・イワヘゴ・ツクシイワヘゴ・オオクジャクシダ・キヨズミオオクジャク・オオミネイワヘゴ・ミヤマクマワラビ・ミヤマベニシダ・オクマワラビ・クマワラビ・ミヤマイタチシダ・ナガバノイタチシダ・ミサキカグマ・サイゴクベニシダ・ギフベニシダ・ナチクジャク・イヌナチクジャク・マルバベニシダ・エンシュウベニシダ・ヌカイタチシダ・ヌカイタチシダモドキ・ヌカイタチシダマガイ・オワセベニシダ・ナンカイイタチシダ・ヤマイタチシダ・ ヒメイタチシダ・オオイタチシダ・ベニシダ・トウゴクシダ・オオベニシダ・ムラサキベニシダ・ホウノカワシダ・キヨスミヒメワラビ・カツモウイノデ
ヒメシダ科 アミシダ・ミゾシダ・ミヤマワラビ・ゲジゲジシダ・ミゾシダモドキ・ヤワラシダ・ヨコグラヒメワラビ・ヒメワラビ・ミドリヒメワラビ・ヒメシダ・テツホシダ・オオハシゴシダ・ハリガネワラビ・ハシゴシダ・コハシゴシダ・ヒメハシゴシダ・イブキシダ・ホシダ・イヌケホシダ
イワデンダ科 クサソテツ・イヌガンソク・コウヤワラビ・イワデンダ・フクロシダ・ウスヒメワラビ・ウラボシノコギリシダ・ヘビノネゴザ・ホソバイヌワラビ・トガリバイヌワラビ・シマイヌワラビ・ミヤコイヌワラビ・サトメシダ・タニイヌワラビ・サキモリイヌワラビ・ヤマイヌワラビ・カラクサイヌワラビ・ヒロハイヌワラビ・イヌワラビ・ハコネシケチシダ・シケチシダ・オオヒメワラビ・ミドリワラビ・ミヤマシケシダ・ハクモウイノデ・ホソバシケシダ・フモトシケシダ・ムクゲシケシダ・セイタカシケシダ・シケシダ・ナチシケシダ・オオホソバシケシダ・ヘラシダ・ノコギリシダ・イヨクジャク・ミヤマノコギリシダ・ホソバノコギリシダ・ヒロハミヤマノコギリシダ・コクモウクジャク・ニセコクモウクジャク・オキナワコクモウクジャク・シロヤマシダ・シマシロヤマシダ・オニヒカゲワラビ・ヒカゲワラビ・キヨタキシダ・イワヤシダ・オワセシダ・ヒュウガシダ・タンゴワラビ・ヒロハノコギリシダ
スジヒトツバ科 スジヒトツバ
ウラボシ科 ビロードシダ・イワオモダカ・ヒトツバ・コウラボシ・ホテイシダ・ミヤマノキシノブ・ヒメノキシノブ・ツクシノキシノブ・ノキシノブ・ナガオノキシノブ・マメヅタ・クリハラン・ヒロハクリハラン・ヤノネシダ・ヌカボシクリハラン・ヒトツバイワヒトデ・イワヒトデ・サジラン・イワヤナギシダ・ヒメサジラン・タカノハウラボシ・ミツデウラボシ・アオネカズラ
ヒメウラボシ科 ヒロハヒメウラボシ・オオクボシダ
アカウキクサ科 アカウキクサ・オオアカウキクサ

熊野の代表的なシダ (海岸)
タマシダ
タマシダ 海岸の岩場で見られるシダで、針金状の葡萄枝を出し、先端に芽をつけ新しい株をつくって繁殖する。また葡萄枝には球状に肥大した貯水器官の球がつくられる。タマシダの名はこれからきている。熊野では殆どの地域の海岸で見られる。
ハマホラシノブ
ハマホラシノブ 潮風の当たるような海岸の崖地の岩の割れ目などに生育する。平地で見られるホラシノブに比べ葉が肉厚で、葉面にやや光沢がある。多くはないが海岸で岩場を探せば見つかる。
カツモウイノデ
カツモウイノデ 白浜町以南に分布するが不思議なことに、熊野川を越えた東側の三重県ではまだ見られていない。よく成長した葉は1mを越す程になる大型のシダで、中軸や羽片の軸には中心部褐色の細かい鱗片がびっしり着き、軸全体薄汚れた茶色に見える。熊野でも少ない種類である。
ヒロハノコギリシダ
ヒロハノコギリシダ 三重県側の九鬼ではずい分以前から生育が知られていたが、最近和歌山県でも太地町で見つかった。大きくなると株が地上に立ち上がり、20〜30cmの木生シダのようになる。本州では熊野にだけ見られる南方系の大型シダである。
ヤワラハチジョウシダ
ヤワラハチジョウシダ 海岸に近い低山地に見られるシダで、京都大学におられた田川基二先生によって那智山で最初に発見され、種小名にnatiensisが付けられている。多くはないが熊野では樹陰に成育し、点々と分布がみられる。他のハチジョウシダの種類に比べて、葉面の緑色がうすい特徴がある。

熊野の代表的なシダ (平地)
イシカグマ
イシカグマ 熊野では低地の石垣や路傍・山裾などのいたる所で見られるシダで、根茎は地面を這っているが葉は立ち上がりこみあって着く。よく成長すると葉の高さが1mを越すようになる。人里では雑草をなしている。
イヌケホシダ
イヌケホシダ 大阪自然史博物館が行なった、昭和20年代後半の北山峡の調査で、本州で最初にこのシダの存在が確認されたといわれているが、その後各地から報告されている。熱帯に分布する種類で、現在では地球の温暖化が影響しているのか、この熊野で平地の路傍で珍しくなく生育がみられる。葉は元のほうが幅が狭く毛が多い。
オオハナワラビ
オオハナワラビ 胞子葉が着いていなければシダとは思えない姿をしている。畑の縁や森の中に見られ、葉は他の多くのシダに比べて水っぽい感じである。熊野では同じ仲間のフユノハナワラビよりも多いように思う。
テツホシダ
テツホシダ 南方系のシダで熊野では湿地に生育し点在している。葉はやや光沢があり硬い感じで群生する。新宮市の浮島が国の天然記念物に指定されたのも、このシダと北方系のヤマドリゼンマイが、混生することが指定の一つの理由とされている。
ミズワラビ
ミズワラビ 戦後の一時期、盛んに使用された水田での除草剤によって、絶滅が心配されていたこのシダが、県内のシダを精力的に調査された田辺の真砂久哉氏によって、すさみ町で見つけられ、その後県内各地で生育が確認されるようになった。熊野でも殆どの地域で見られている。乾きの悪い水田の刈り取りの終わった稲株の間を探すと、熊野の大抵の地域で見つけられる。柔らかい水生のシダで葉は羽状に裂け、特に胞子をつける葉は裂片の幅が狭く線状である。

熊野の代表的なシダ (山地)
マツバラン
マツバラン その形状からホウキランとも呼ばれるシダで、多くはないが熊野の各地の岩場の割れ目や木の幹の腐葉の溜まった凹み、所によっては神社や寺などの庭の地面に生えていることもある。細い棒状の茎は上部で先に向かって二叉二叉に細かく分かれる植物で、真正の葉も根もない原始的な形態をしている。江戸時代の園芸図鑑「松葉蘭譜」に載せられた“文竜山”という園芸種は、富田川の奥の分領山で産出したものと言われている。
オオクボシダ
オオクボシダ 日当たりのよい湿り気のある岩面で苔などに混じって見られる植物で、1879年頃、当時東京博物局におられた小野職愨皷という人が、那智山系で採取されたのが最初でコケシダと呼ばれていた。その後東京大学の大久保三郎助教授によって箱根で採集され、1891年に矢田部良吉教授によってオオクボシダと命名されたということである。この地方では成長しても葉の長さが5p内外と小さいので見つけにくいが、よく探せば各地に生育している。
ヒノキシダ
ヒノキシダ 少ない種類で林縁や渓側の岩の上などで見られる。葉の形状が針葉樹のヒノキの葉に似ているというところからこの名がある。方言名でツルシダと呼ばれるのは、葉の先端が伸びて、先に芽をつけ新しい株を作って連なるからである。
イワヒバ
イワヒバ この地方では一般にイワマツと呼んで園芸植物として栽培されている。熊野では低山から、かなりの標高のところまでの岩場の崖地で生育している。特に渓流の岸壁に多く見られる。斑入りのものが園芸用に珍重される。
ミズスギ
ミズスギ 多少湿り気のある赤土の露出した崖地などに生えている植物で、同じ仲間のこの地方でキツネノタスキと呼ばれるヒカゲノカズラによく似ている。しかしヒカゲノカズラに比べて軟らかな優しい感じで、特に胞子の着く茎がヒカゲノカズラのように裸に近い棒状になって長く立ち上がらず、短く茎の先に作られている。熊野ではどの地域でも普通に生育が見られる。
ヘゴ
ヘゴ 大型の木生のシダで亜熱帯や熱帯では茎の高さが4mにもなるという。地球温暖化のためか、最近この地方でも那智勝浦町・新宮市・紀宝町で、林縁や海岸に近い植林地で見つかっている。ただ寒さには弱く冬の間に葉先が傷められている。大きく成長したものでは高さが1m程になっている。
クサマルハチ
クサマルハチ このシダもヘゴの仲間であるがヘゴのように大きくはならない。根茎は立ち上がらず横に這って先に葉を着ける。かなり以前から熊野川町や新宮市・古座川町で見つかっていたが最近太地町でも生育が確認されている。葉は大きく成長すると1mぐらいになる。葉の柄の基部は光沢のある赤褐色をしている。
ナチシダ
ナチシダ 発見者は定かではないが、最初に那智山で見つかったのでこの名前が付けられているという。田中芳男著「羊歯文科名彙(1871)」に既にこの名が出ている。大型のシダで葉は柄の上部で三叉し、その枝はさらに短い枝を分けるので、全体で五角形に見える。珍しい種類ではなく、この地方では神社の森などで普通に繁殖している。
オオコケシノブ
オオコケシノブ 低山地の年中水がしたたり落ちるような湿った陽の当たらない岩壁に、垂れ下がるように密生して繁殖している。この仲間のコウヤコケシノブやホソバコケシノブに比べると少ない。写真のものはオニコケシノブと呼ばれている葉の中軸の翼の幅が広く波型に縮れているものである。
シノブ
シノブ シノブ玉として山草愛好家に栽培されているシダで、この地方では主に山地の木の幹や太い枝に着生し野生しているのが各地で見られる。珍しい種類ではないが山の着生シダの代表としてとり挙げた。

データ提供 熊野自然保護連絡協議会 中嶌 章和